虚栄心

CafeReoGroup

1年ほど前から毎週土曜の午前中、自宅にヤクルトレディがやってくる。
特に契約を交わすわけではなく、欲しい時に買い、いらなければ買わなくてよい気楽な訪問販売だ。

 

商品を入れた保冷バッグから好きなものを選んで買う方式で、
はじめは『ミルミルS』、味が好みでパックで買うことにした。
次の週から毎回私のために『ミルミルS』をパックで持ってきてくれた。

 

そのうち『ヤクルト400』を一緒に買うようになった。これもパックでだ。
ヤクルトレディからヤクルトを買わずしてどうする、という気持ちだった。

 

やがて『ミルミルS』は『はっ酵豆乳』に置き換わる。
豆乳は身体にいい、食生活の乱れに対する小さな足掻きだった。

 

しばらくしてヤクルトレディが新商品を勧めてきた。
ヤクルト400W』、ダブルの強さでお通じを改善してくれる優れものである。
私にお通じの悩みは無かったが、ヤクルトレディはチラシ片手に熱心に説明をしてくる。
どうしても私のお通じを改善したいようで、私のお通じをこんなに思ってくれる人は生まれて初めてだった。
出所不明の熱量に負け、その日は『ヤクルト400W』を購入した。

 

次の週から『ヤクルト400』は『ヤクルト400W』に自然と入れ替わっていた。
「一回だけじゃないの?」という言葉は飲み込んだ。
どうやら私の腸内環境はヤクルトレディの掌の上のようだった。

 

今も毎週欠かさずヤクルトレディはやってくる。
保冷バッグにヤクルトを詰め、築45年エレベーター無しの3階建マンションの階段を重い足取りで上がってくる。
インターホンを押し、応対する私に軽く挨拶をしながら「いつものですね~」と
ヤクルト400W』と『はっ酵豆乳』のパックを手渡してくる。

 

だが最近の私は渡された商品より、蓋の開いた保冷バッグに視線がいく。

 

巷で話題の『ヤクルト1000』である。

 

別になんてことはない。
「今日はヤクルト400Wじゃなくて、ヤクルト1000で!」
この一言で良いのである。

 

が、私はそれを言わない。
流行りの『ヤクルト1000』ではなく、敢えて『ヤクルト400W』を飲み続けることによって、
ヤクルトレディに「こいつ”通”だな」と思わせたいのである。

この記事を書いた人: ムーン社員